「宝塚」は文化趣味の中でも、もっとも男女間の嗜好差が激しいものかもしれない。
僕も宝塚出身女優は何人か知っていても、舞台自体を見に行くことについては、機会のニアミスを繰り返し、結局一度も無かった。興味の度合いは、その程度である。
しかし、このたびとうとう自分でチケットを予約・購入して見に行くことになろうとしている。好きな後輩の小説が原作となり、星組公演で舞台化されるからだ。
並木陽、は学生時代の文芸サークルの後輩だ。
入学したての18歳の頃から、本格派の歴史小説を続々と書き上げるすごい人材で、とんでもないのが入部してきたなと一撃でファンになった。
筆名も当時から一貫しており、作家としてのスタンスがすでに定まっていたのを実感する。
当時サークルで発行されていた同人誌より
ていねいな取材に基づいたリアルな叙述が彼女の作風で、店の名前や小道具にひとつ至るまで精密に描くことで、その時代に生きているかのような感覚に浸らせてくれる。途方もない熱意と愛情がなければ、こういう作品は生まれないだろう。
彼女はその後も同人活動を通して創作を続け、2017年には同人作品『斜陽の国のルスダン』がNHK-FM「青春アドベンチャー」でラジオドラマ化されるという大きな成果を挙げる至った。
僕はミュージックスクエア〜青春アドベンチャーの流れを愛聴していた高校生だったので、この枠に知己の作品がオンエアされるというのは、人生のイベントとも言えるほどうれしい出来事であった。
そして驚くことに、並木さんはその後毎年たて続けに青春アドベンチャー枠で作品を発表し続ける。
- 2018年『暁のハルモニア』(2週連続)
- 2019年『紺碧のアルカディア』(2週連続)
- 2020年『悠久のアンダルス』(2週連続)
- 2021年『1848』(3週連続)
- 2022年『軽業師タチアナと大帝の娘』(3週連続)
ウィキペディアを見ると、書き下ろし作品で3週連続なんてやっているのは並木さんだけなのですごい胆力だなと驚嘆する。
『タチアナ』のオンエアは先週終わったばかりで、今年も僕は至福の3週間を過ごし、いつもなら翌年の作品オンエアを心安く待ち受けるところなのだが、今年はルスダン改め『ディミトリ』の宝塚公演が待ち受けている。
行くのか……とうとうおれも宝塚に行くのか……
公演を前にして、原作『斜陽の国のルスダン』が商業出版へと切り替わるらしい。
同人誌として発表していた『斜陽の国のルスダン』の商業出版の引受け先が見つかり、11月1日に星海社より刊行予定です。
— 並木陽@10/2文学フリマ札幌う-11,12 (@namicky24) September 17, 2022
加筆でイメージが変わって宝塚歌劇の原作としての性質を損なうことがないよう本文の修正は最低限に止めますが、トマトスープさんの描き下ろし表紙と商業版独自の"何か"がつきます。
まずはそれを購入し、心を落ち着けようと思う。