まさゆき研究所

ライター・加藤まさゆきのブログです。デイリーポータルZなどに記事を書いています

寄席メモリーズ 2025秋味

国宝 @池袋グランドシネマサンシャイン

母親と『国宝』を観に行く。
本当は公開直後に行こうと思ってたのだけど、母親が見に行きたいというので付き添いをするために2ヶ月も引き延ばし。
母は耳もかなり悪いのだが、字幕を重ねて見られるメガネを貸してくれるので、気分良く鑑賞。それ以外にも、20年ぶりに映画館に来たという母は色々な変化に目を白黒させていた。
映画自体は、1秒たりとも無駄なシーンが無い素晴らしい出来だった。

10月

浅草10月上席 伯山

浅草でやる伯山の芝居に行くのは、生活の一部。

この日、車椅子の姉と湾岸で落ち合わせて出かける用事があったのだが、「伯山の芝居は欠かせないので」と伝えて予定を調整した結果、結局、湾岸も浅草も一緒に行くことになる。

湾岸に行く途中月島・佃付近をついでに散歩。「3月のライオン」の熱心なファンなので、主人公を気取って隅田川沿いを歩く。
住吉大社は落語「佃祭」でも物語の鍵になるので気になっていた。古すぎるものと新しすぎるものが平然と同居してる様はすごい。

湾岸からタクシーで浅草に向かって、雷門前でレンタル車椅子を借り、浅草プチ観光にも出かけた。効率がいい。最近どこもレンタル車椅子があるようになったので、すっかりお世話になっている。

伯山のネタは「万両婿」。聞くのは3回目。何度もやるだけあって本当に無駄なく完成されており、寄席が爆笑でひっくり返る。

松鯉の「玉子の強請」もよかった。トリで出てきた伯山が「師匠、あんな声出るんだ!」とその調子の良さに驚いた、とマクラで語っていた。

 

浅草10月下席 松鯉

松鯉先生がトリ。時間があったので、近くを散歩したら「幡随院長兵衛」の墓に出くわす

落語「芝居の喧嘩」に出てくる親分だ。(たぶん元は講談)
演芸ファンになってから、少しずつ詳しくなってきた。江戸散歩と演芸鑑賞の熟年趣味としての相性の良さはこのへんにあるのだろう。

松鯉は「赤垣源蔵・徳利の別れ」。
赤穂義士伝のうち、未だ聞いたことのない演目だったので嬉しかった。

鯉昇師匠の「うまのす」もよかった。
根本的に何もない空箱のような落とし噺を、聞かせられてしまう手腕がすごい。

 

狂言鑑賞 @矢来能楽堂

勤務校の行事で矢来能楽堂へ。
高校生の頃、毎日チャリ漕いでた通学路沿いにある。30年の時を経て、引率して鑑賞させるために来訪できたのは感慨深い。
能楽堂かっこいいなー、と眺めていたが、よく思い出してみれば、実家の隣の神社にもあった。何を見て生きてきたのか。

演目は「附子」「柿山伏」。
初めて見る生の狂言に圧倒された。狂言の台本は「時代に合わせて変わらない」ものなので、大人でも2割ぐらいは何を言っているかわからない部分もあるのだが、そんなことは関係ない。演者の力がすごい。
そのあと図書館で狂言の台本を借りてきて、「あー、ここはこう言ってたのか!」と味わい、また楽しむことができた。伝統芸能の開いてない扉がどんどん開いてしまう。

11月

浅草11月上席 つる子

つる子が夜トリ。
朝から時間が空いている日だったので、午前中に家族の分の夕飯を作り、隅田川沿いにジョギングに出て5キロほど走ったあと、ゆったりと銭湯で汗を流し、満を持して寄席へ向かう。

ひとり休日として完璧すぎる1日だった。

つる子は「妾馬」。
得意の、物語のコマになりがちな女性人物を、ちょっと掘り下げて描き出す「つる子噺」のやつだ。
つる子は音域も広いし、そもそもの語りも上手いところに、そういう工夫を入れてくるから、何度でも聞きたくなる。

あと小次郎さんも良かった。前座の頃から声が良くて好きだったのだが、無事二つ目になって、これから活躍が期待される。ちょっと注目して見ていきたい。

寄席メモリーズ 2025夏 ご祝儀

6月

伯山プラス @イイノホール

伯山独演会「伯山プラス」当選。幼なじみの友と向かう。

そろそろ怪談の季節、やってくれないかなと思っていたら、嬉しいことに期待通り。
前から聞いてみたかった『乳房榎』をやってくれる。

iPodで聴く伯山ラジオも2周目に入り、ますます伯山が良い。

 

7月

末廣亭7月下席

寄席で行き残していた恒例興行である、人間国宝神田松鯉の夏の怪談へ。
昨年、自身のコロナで行けず、82歳の松鯉先生がこの1年の間で引退されてしまったらどうしようと、どきどきしながらこの夏を待っていたが、何とか間に合ってよかった。

この日は宮治、伯山、その他にも腕っこきの名演者揃い。昼から入ってたっぷり楽しむぞと思っていたら……



昼過ぎから急激な雷雨になり、時には落語が聞こえなくなるほどの豪雨と雷鳴。伯山がやってるあたりでMAXに達して、客席も苦笑い。

そして雷も止み、トリの松鯉先生は怪談「小幡小平次」。終盤、凄みの緊迫から、暗転。そして終わってから大拍手、開放。

退場後に散歩した雨上がり新宿の空気が別世界のようだった。

 

三遊亭兼好 独演会「けんこう一番!」@文京シビックホール

「落語を聞きに行ってみたい」という若者がいたということで、演芸ファンの友人が選んだのが兼好師匠の独演会。そこに合わせて僕も呼んでもらえて、3人で見にいく。

兼好師匠は落語の入口としては、喬太郎師匠よりも入りやすいかもしれない。どのキャラを見ても、出てくるだけで嬉しい、ずっと見ていたくなる愛嬌がある。

若者にも大満足してもらえて、最高の会だった。

 

8月

三遊亭仁之吉@つくばカピオ

突然「だれ??」という落語家になるが、初のつくば市出身落語家である三遊亭仁之吉さんだ。二ツ目に昇進されたので凱旋落語会である。

近所のセブンイレブンで何かの落語会のチケットを発券したら、顔なじみの店員のおばあちゃんに落語好きとばれてしまい、そしたらなんと、おばあちゃんが仁之吉さんの習い事の師匠だったという奇縁で、落語会に行く前に手ぬぐいすらもらってしまった。

仁之吉さんは、前座時代にも高座を見たけれど、なかなかに面白い方だった。今回の会でも初めての「蚊いくさ」というネタを聞かせてくれた。ぜひぜひNHK新人賞まで駆け上がってほしい。

 

9月

末廣亭 9月上席 夜の部「七代目三遊亭円楽披露興行」

七代目円楽が落語芸術協会に入ったので、円楽一門の披露興行を定席寄席で見られるということに。現象としては結構レアな番組である。
この日に口上で上がっていた兼好師匠も「みなさん……すごく珍しいものを見てるんですよ!」と言って笑いを取っていた。
僕も「これは珍しい!」と勢い込んで前売券を買ったら、めちゃくちゃ前方の席が取れたので「アッ意外と売れてない!」と拍子抜けする。同じ円楽でも笑点に出ていない円楽は正直まだまだなのだと実感。


でも前の席になったお陰で「できたくん」の発泡スチロール作品がもらえたのでよし。トトロと七代目円楽師匠。

円楽師匠のYouTubeはよく見ていて、とても面白い。バラエティもどんどんこなせそうなのだから、はやく好楽師匠の席を簒奪して欲しい。

 

池袋 9月中席

喬太郎師匠がトリ。2年ぶりに勢い込んで池袋演芸場に向かう。

時間があったので池袋の街を散歩。

最近は子供を連れてポケモンセンターばかり行っていたが、通っていた高校があったので、原体験的な思い出が色濃く残る。サンシャイン前から東口、西口、北口と、2時間ほど、30年の人生に思いを馳せながら丁寧に歩いた。

高校生の頃に通った50円ゲーセンは、今でもレトロゲーム専門のゲームセンターとして営業していて、「天地を喰らう2」とか「パズルボブル」とか、心臓が早鳴りするほど懐かしいゲームたちが稼働していた。

 

落語はトリの喬太郎、「品川心中」。
僕が落語の世界に取り込まれた最初の演目で、いつか高座で聴きたいと思っていたのだが、それが喬太郎師匠で聞けたので、本当に嬉しかった。

明烏」は兼好師匠で聞けたし、あとは「夢金」を誰か好きな師匠の口演で聞いてみたいもんだと思う。

寄席メモリーズ4・5月 こんにちは信楽さん

4月

浅草 4月上席

上席5日間、伯山がトリ。
そんな折、子に「おばあちゃんちへ従姉妹とお泊まり」というイベントが入ったので、暇を持て余していたカミさんを引きずって夜の浅草へと向かう。

演目は「万両婿」。見るたびにバージョンアップして行く得意のネタに今日も爆笑と感動の高座だった。カミさんも無理やりだった割には気に入っていた。
なぜ僕がいつも少し無理をしてまで伯山を見に行くのかわかってもらえたと思う。

また、最後まで寄席を見たのはカミさん的には初めてだったので、「その日の主任に向けて盛り上げて行く」、とはどういうことなのか、肌で感じられたことは良かったとも言っていた。

小痴楽師匠の「両泥」も良かったし、萬橘師匠もフル回転で良かった。
ボーイズ先生が謎かけをお題を募っての即興でやっているのも初めて見られた。(できるんだ!と、びっくりした)

配偶者を誘って観に行くのにこれ以上は無い、完全な浅草演芸ホールの夜席だった。

 

「こしがらき」@亀戸梅屋敷

日曜日、京橋でやっていた「ヨシタケシンスケ展」を家族で見て充実したのち、僕だけ分かれて単独で亀戸に向かう。
柳亭信楽さんをどうしても観ておく必要があったからだ。

僕の勤務校では落語に関わる生徒活動を恒例行事として行なっていて、その講師に信楽さんが来てくださる段取りになっていた。生徒たちに信楽さんを紹介する前に、自分の目でしっかりとその芸を確かめておきたかったのだ。

 

 

信楽さんは気鋭の二ツ目さんで、ラジオ「小痴楽の楽屋ぞめき」やポッドキャスト「新ニッポンの話芸」で幾度かトークを聞いたことはあったが、落語を見るのは初めてだ。

若手新作派の中でも腕っこきの名演者だという噂なので、それなりに期待して行ったのだが、その芸は期待を大きく上回るものだった。

『イワヌマン』『腰痛』、ともに予想した展開が、予想以上の芸で返ってくる、リズムのいい楽しい話だった。信楽さんのような、腕のある新作派の演者さんに出会えるとやっぱり新作もいいなと素直に思ってしまう。
せっかくなので、信楽さんには「今度よろしくお願いいたします」と簡単にあいさつをさせていただいた。

そして翌々日、信楽さんによる落語指導が勤務校であったのだが、大成功であったことは言うまでもない。
小さいながらも初めて落語家さんに「エージェントを経由しないで仕事を依頼する」ことができたので、とても嬉しかった。


亀戸天神の藤棚が見頃だった

 

5月

浅草 5月上席

中学生の頃、堀切(葛飾区)に住んでいた友達のところへ九段から自転車で遊びに行ったことがある。
中学生の足には結構遠く、最後、荒川を渡る大きな橋でママチャリを担ぎ上げて階段を登るのにえらい苦労したな、という記憶がくっきりと残っている。
それっきり堀切には行くこともなく30年が過ぎたが、落語趣味に没入してから都内の東側地区をうろつくようになり、今また再訪のときかなと思って散歩に出かけた。


30年前に渡った橋の上から。

 

北千住から堀切、四ツ木向島→千束→浅草と3〜4時間ほど。区で言えば足立・葛飾台東区あたりの川沿いゾーンをうろうろしたのだが、感想として「江戸の境界ってやっぱり荒川なんだな」ということを感じた。

道幅の狭さや町並みの雰囲気が荒川を境に結構変わる。堀切のほうはもっと下町ぽいのかと思っていたが、わりとノンビリと住宅地が広がっていて、住むには心地よさそうだけど、物見遊山に来る感じではないなと思った。

最後、散歩のシメとして浅草演芸ホールへ。

昼トリの彦いち師匠から喬之助師匠まで。チケットが昔ながらの味のあるやつじゃなくなってて驚く。

最近行くのは芸協の寄席が多かったので、落協の浅草は久しぶり。久しぶりに見る雲助師匠も一朝師匠も、全部よかった。圓太郎師匠「祇園祭」は特によかった。

GW明けで客の入りは少ないのにチバテレビ「浅草お茶の間寄席」の収録が入っていて、ちょっと寂しそうだったから多めに笑い声を上げておいたが、「あなたの声はうるさいからオンエアでは全部ばっさりだよ」とカミさんは否定的である。

 

浅草 5月中席 昼の部「真打昇進披露興行」

続けざまに翌週も浅草。
行き過ぎという気もするが、行けないときにはどうやっても行けないので、悩んだら行っておく方がのちのち気が楽だと考えるようになった。

「翁そば」というそば屋が寄席の近くにあり、落語家のフリートークで出てくる定番の店なのだが、しょっちゅう不定休を取る店で、僕はこの店にもう1年以上も「本日臨時休業」でフラれ続けており、今度こそ!と向かった先週に閉店だったときは、もう一生、翁そばで食えないんじゃ無いかと軽く絶望した。

 

しかし、今日こそは久しぶりの営業日。
宮治師匠や昇也師匠が食べていた「冷やしたぬきギョク落とし」を満を持して注文することができた。

 

真打披露口上に伯山先生が並んでいるところを初めて見られたのが嬉しかった。鯉丸さんについては以前も伯山ラジオで触れていたので、その縁もあってなのだろうか。

談幸師匠は、前々から達者な方だな、おもしろいな、と思っていたのだが、この日の「寄合酒」はその印象をさらに深くさせてくれた。

まだまだ寄席には、行けば行った分だけ発見がある。月2回のペースをなんとか維持して頑張りたい。

寄席メモリーズ2025 早春 兼好師匠〜米丸祭り

2月

つくば落語 三遊亭兼好 @カピオホール

現代落語界の頂点のひとり、兼好師匠がつくばに来てくれた(独演会)

落語家は割とシビアに、巡業に行った先の民度を測る傾向がある気がしている。
以前、マクラでつくばエクスプレスが「車窓になーんの変化もない」といじられていたこともあり、僕らつくば市民の民度は兼好師匠にどう評価されるのか、勝手に市民を代表してどきどきしてしまった。

初めて聞いた兼好師匠の『締め込み』は泣いて怒って怒って泣いての、夫の情けなさの描出が素晴らしく、師匠に対してのリスペクトがまたひと重ね更新される最高の体験だった。

なお、師匠のつくばへの感想は「若い世代(子供)が多い」だったのだが、その中でいきなり『宮戸川』をぶっこんでくる師匠の意気はすげぇなと、そこにもまた驚かされた。(幼馴染の男と女がひとつ布団に寝ることになり……というスジ)

僕も8歳の娘連れで行ったのだが、宮戸川の終わりどころを知らなかったうちのかみさんは「この話はいったいどこまで行くの……!」と気が気ではなかったらしい

 

浅草2月上席

寄席演芸は生きている芸なので、見られるときに見ておかないと、あとからどうにも間に合わなくなってしまう。
もう半年早く寄席に行きはじめていれば小三治を見られたのにと、僕は今でも後悔している。

というわけで遊三師匠(86歳)がトリの浅草。伯山も文治も出るしと思い足を運ぶ。

大ネタ『火焔太鼓』、志ん朝のCDでは何度も聴いているが、意外に寄席でほとんど聞いたことがなかったので、すごく嬉しかった。
遊三師匠は素晴らしく元気で、正月の笑点「師弟大喜利」に出演されたときもすごいなーと思ったが、またあらためてその達者ぶりにおどろかされた。またひとつ人生の思い出ができた。

しかし思い出すにあの師弟大喜利、遊三・一朝・志の輔・伸治が共演してたのは本当にすごい。好楽の弟子枠が7代目円楽だったのは笑点的にはしょうがないけど、弟子じゃないし、むしろ真に弟子である兼好師匠を笑点で見たかったと思っている落語ファンは少なくないと思う。

落語教育委員会 @なかのZEROホール

その兼好師匠が今月2回目。大人気の定期興行「落語教育委員会」のチケットが取れたのは初めてなので、期待に胸を膨らませての中野。

明烏』!

ぼくは志ん朝師匠の『明烏』が大好きで、CDで何度も聞いて何度も笑ってしまうのだけど、初めて生で、しかも兼好師匠で聞けて、この瞬間のために劇場通いをしてたのだな……と思うぐらいに嬉しい遭遇だった。

そしてやっぱり超絶おもしろい。

このネタ、夜明けの朝に食べている茶請けを定番の「甘納豆」から「梅干し」に志ん朝は変えてて、その効果が大好きなのだが、そこからさらにこうするんだ!というアレンジが上手くてひーひー言うくらいに笑わされた。

本当にすごい。はやく圓生を襲名してほしい。

 

おまけ

中野を散歩してたら見つけた米の自販機。
子供の頃、近所の米屋にもあったなーとしばし感慨にふける。

3月

末広亭3月上席 桂米丸追善興行

発表と同時に、全落語ファンが震撼した歴史的興行。
落語団体五派が一堂に会した「桂米丸追善興行」、通称「米助祭り」。(桂米助フィクサーとして成立させたので)

顔付表。
3度見、5度見したどころか、落語ファンに「これを見ながら一晩酒が飲める」と言わしめた、驚異的な面々のそろいぶみである。

前売りチケットは発売後5分でほとんど完売状態。
僕も壮絶な争奪戦に参加し、なんとか休みの取れている平日のチケットを押さえることができた。

 

 

 

やっとタイミングの合った二葉さんは、十八番の『上燗屋』。
女性初のNHK新人大賞で話題になったが、アホのおっさんを完璧な完成度で描いていく芸で観客を飲み込み、気がつけば持ち時間が終わっていた。受賞したことなんて全く思い出させない、圧倒的な芸だった。

七代目円楽は、前日までの披露興行を終えて、初の高座がこの米助祭り。客席から「師匠!」「七代目!」と掛かる声が末広亭に響き渡っていた。

僕は右後ろの売店近くの席に座っていたのだが、三三師匠が、じいっと静かに、長い間、売店の隅から高座を眺めていた。

 

こんな熱気に溢れた寄席は、そうは見られないだろうが、平熱みたいな感じで進んでいく寄席も僕は好きなので、引き続き寄席へ通っていく予定です。

弟・巣鴨〜兄・日比谷。30年前の高校受験業界。

日比谷高校の東大合格者数が急進し、巣鴨高の成果が振るわない、というこの記事を読んで少なからず思うところがある。

www.dailyshincho.jp

加藤家は僕が巣鴨高卒で、兄が日比谷高卒だからだ。

 

直撃する日比谷高校の凋落

兄が進学した頃、日比谷高は凋落の一途を辿っていた時期で、放任主義の下で遊び回る兄を見て両親は「こりゃダメだ」と思ったに違いない。
7歳下の僕は、地元の公立中から巣鴨高校へと放り込まれることになった。

実際、ぼくの年代(1994年入学)が日比谷の最底辺期で、入試の倍率で伝説となる「日比谷が定員割れ(0.96倍)」を起こした年でもあった。東大合格者も1人、担任の先生との面談でも「日比谷はやめておけ、大学進学がきついぞ」と言われる始末。

日比谷の卒業生にとっては悪夢のような時期だったに違いない。

 

受験界を席巻する巣鴨中高

打って変わって巣鴨中高は「新御三家」と言われ、中学受験界を席巻していた時期でもあった。独自のスパルタ校風を掲げながら、うなぎ登りする東大合格者数。
「やっぱり昭和式の教育って正しかったんだ」と思って安心したい当時の親たちに人気だったのだろうと僕は踏んでいるが、それ以外にもさまざまな時流や戦略がうまくはまったのだろう。最高で78人の東大合格者を出し、演説が長いことで有名な名物校長だった堀内マサゾウ校長は意気揚々だったのではないかと推察される。

 

高校入ったら演劇をやる!はずが……

僕は小学生の頃から「大きくなったら日比谷高校に入るのかなあ?」と思っていた。家からも近いし、近所の大人たちがが勧めてくれた。演劇や合唱に全力で情熱を注ぐ兄の姿はまぶしく輝いて目に映った。
しかしその反面の勉強に情熱を全く注がないようすを知る両親や担任の先生の勧めで、クセが強め目な私立高校を選ぶことになった。ふんどしで泳いだり、深夜に登山をしたり、思い描いていた高校生活とだいぶ違う、思い出すと眩暈のする不思議な3年間だった。何度か辞めようと思ったが、高い学費を払ってくれている親にも申し訳なくて、退学する踏ん切りもつかなかった。

 

日比谷の再生/巣鴨の凋落

僕が卒業した後から、やっと都教委が「日比谷がこのままではやばい」と本腰を入れ始め、長年の放任主義を撤廃し(兄が言うには「日比谷らしさは無くなった」)、進学実績の出る学校へと運営の舵を切ったのである。

そうすればネームバリューと立地では随一の高校である。やや時間はかかったが、都下でも有数の進学校として完全な再生を遂げた。

反面、僕が放り込まれた巣鴨高は親世代も平成育ちになりつつある現在、教育方針はさすがに時流から取り残され、進学実績は右肩下がりに落ち込んでいる。

 

巣鴨高に対して特に残念に思うところは無い。あの方針では現代において仕方ないだろうな、と教育業界に入った身としては思う。それでも私立校は進学実績が全てではなく、もっと大切な魂がある、ということは朝礼でマサゾウ先生から週2回×3年間で100回以上は聞かされた。
(「私学は二刀流、教育理念が大刀、進学実績が小刀です」というキラーフレーズは今でも個人的に使う)
これからも魂を大切にして欲しい。

むしろ日比谷高校に僕は思う。なんで僕が15歳の時に、もっと本気を出していてくれなかったのだと。あの頃、都立がもっとしっかりしてれば、僕は間違いなく都立高を第一の選択肢として進学していたはずだった。

僕が就職先として公立校ではなく私学業界を選んだのには、根底に15歳の頃に感じた都立校界隈に対してのこの不信感がある。いまさら言っても、どうにもなるものではないのだが、都立校に関するニュースを聞くたび、20年間もんやりと思い続けている。

寄席メモリーズ2024-25 年末年始

12月

伯山プラス

11月の海外出張のせいで、12月中席の末廣亭(伯山が主任)を取れず、結構しょんぼりしていたら伯山プラスが当選する。

「安兵衛駆け付け」伯山
「安兵衛婿入り」伯山
「荒川十太夫」伯山

前座なしの、赤穂義士伝3本セット。
文句なしの年の瀬だった。

色物は林家二楽師匠。紙切りで紙芝居ふうのストーリーを見せるとっておきの芸も披露してくれた。

 

1月

しのばず寄席@上野広小路亭 昼の部

広小路交差点にある「上野広小路亭」。
落語を聞き始めて5年目、足を踏み入れるのは初めてとなる。

最狭小の定席寄席である池袋演芸場よりさらに小さい「椅子席68」。
これはディープな空間に来たぞ……!という緊張と高揚感がたまらない。

 

この日は笑点に抜擢された晴の輔ほか、萬橘・王楽なども出る、目立って豪華な顔付の日で、満員まで客が入っていたのを演者みんながネタにしていた。

しかし客層のディープさもすごかった。
ほとんどが僕より年上の高齢の方ばかりで、隣の男性はノートPCのMicrosoft Accessにびしばし寄席通いのデータを打ち込みながら落語を聞くガチofガチ勢みたいな方だった。
ルールもわからず、土足禁止なのを注意されるところから始まるような僕は、しのばず寄席二等兵である。
精進したい。

寸志「棒鱈」、A太郎「不動坊」、萬橘「だくだく」、小南「里帰り」、王楽「不孝者」、晴の輔「天狗裁き

 

浅草二之席 夜の部

しのばず寄席からそのまま銀座線に乗り、夜は浅草でダブルヘッダー
ホール&寄席のダブルヘッダーは何度かあったが、寄席&寄席のダブルヘッダーは初めて。さすがに軽くめまいがする。

二之席(正月記念興行)のトリは大御所の仕事だが、今年は大抜擢でまだ30代の小痴楽がとるというので、小痴楽ファンである僕は見に行くしかない。
ネタは正月らしい「羽団扇」。音源でも聞いたことがない、全く初めてのネタだったので存分に楽しめた。

去年まで二之席のトリは小遊三師匠だったのが、小痴楽へと世代交代になった。
昨年正月の笑点新メンバー予想では小痴楽を予想して大いに外したのだけれど、次の新メンバーこそ、小遊三引退&小痴楽就任なのだろうなと僕は確信している。好楽→7代目圓楽が先かもしれないが。

おまけ

この日上野でも浅草でも、両方で見たA太郎師匠。
どちらでも謎の写真サービスタイムがあったので、両方で写真を撮った。

 

借りて一度読んだけど、結局買った漫画

岡崎に捧ぐ山本さほ

平成末期のブログ文化が生み出した至宝、山本さほさん。
子供時代から青春時代、大人へと進むにつれて彩りを失っていく世界に対しての反抗と愛惜がセンチメンタルかつコミカルに描かれる。

子供(娘)がそれなりの年齢になったら読ませたいなと思って小学生まで引き付けていたのだが、そろそろかなと思って買った。深夜、一人であらためて読み返して、あらためて泣いた。

 

Heaven?佐々木倫子

動物のお医者さん」に進路選択の影響を強く受けたタイプなのだけど、それでも佐々木倫子さんでは「Heaven?」の方が好きだ。全キャラの個性が無駄なく躍動する展開がすばらしい。

特にオーナーの存在感への説得力がすごくて、わがままで理不尽だけども憎めない人物を描くのがなんでこうも上手いのかと感嘆する。借りた1年後にはまたどうしても読みたくなり、結局買った。

 

乱と灰色の世界』入江亜紀

必要かつ十分に書き込まれた、漫画らしい肌触りのあるペンタッチ。その筆先による生き生きとしたキャラ描写が印象に残る名作。特に主人公「乱」が小さい状態でアンアン泣いてる絵がいいなあと思う。

最初の何巻かを同僚に借りたのだが、その同僚は完結を待たずに辞めてしまったので、続きも含めて自宅で買った。

 

軍靴のバルツァー中島三千恒

詳細な取材と膨大な知識、そして歴史に対する愛が、結構な量まで詰め込まれているのに、すっとバランスが取れた名作。ノンフィクションとフィクションのはざまを切り抜くような物語作りが大変に秀逸。

レンタルで借りて衝撃を受け、育児が落ち着いた頃にまとめて買った。

 

とんかつDJアゲ太郎小山ゆうたろう

これは前に記事で書いた。

同僚から借りたのだが、カミさんも気に入って、「いつか子供に読ませたい」というので、結局買った。(なのに子供は読んでない)
でも、音楽好きだけど漫画は読まない、という同僚に貸したら、面白がって読んでくれたので、買った甲斐があったなと思う。

 

プラネテス幸村誠

20代の頃、世の中にこんな名作があったんだ!と衝撃を受けた。それから5年ほどして結局買った。
40代になってから読むと、さすがに色々と若くて荒削りなところも感じるが、それでも題材の新しさとメッセージの強さは不滅だなと思う。