まさゆき研究所

ライター・加藤まさゆきのブログです。デイリーポータルZなどに記事を書いています

『極夜行』にシビれまくっている

仕事で極夜(白夜の逆)のことを調べているうちに『極夜行』という本に突きあたった。冬の北極圏の極夜の中を数カ月にわたって単独行をした探検家のノンフィクションだという。 

極夜行

極夜行

 

 

これは良さそうだと思ってなんとなく買って読んでみたところ、これがものすごい面白さでびっくりしてしまった。

夏に電車の中で読んだのだが、すごい深さで暗黒の極夜へと意識がひきこまれるとんでもない迫力の書物であり、自分が真夏の日本にいるのを忘れさせられるほどだった。

「迫力?こういう偉業系の人が書く文章って『ドヤ文章』なんじゃないの?」と思うかもしれないが、そんなことはなく、自身の探検行為に対して、そして文章を書くという行為に対してクールな距離感を持ちながら記述されているのがほんとうに素晴らしい。

とんでもない人だ、なんなんだこの人はと思って作者の角幡唯介さんのことを探ると、かつてチベットの未踏地を探検したエッセイでノンフィクションの大賞を受賞したことがある人だとのこと。

 

 

あっ、これはあれだ、むかし本好きの幼なじみから推されたことのある本だ。

そのときは「そのうち読むわ」と記憶にとどめつつ買うのはスルーしてしまったが、こうなってくるとがぜん興味が湧く。

彼のうちにはハードカバーの本ばかりがずらりと並んでおり、「文庫本なんか、本とは言えない。」と読書家版・山岡士郎みたいなことを言うやつだったので、彼に勧められたからにはハードカバーでを買おうかとも思ったが、やはりケチって文庫版にした。

しかし本の中身はそんなことをあっという間に忘れるぐらいに面白く、3日連続google earthチベットの山岳地帯を睨みつけながら食い入るように読んでしまい、翌日の仕事に支障が出そうになるレベルだった。

感動のあまり彼にメールをすると、そうだろう、角幡唯介の本は全部面白いぞ、極夜行の事前譚である『極夜行前』も面白いから読めよ、とさらに推される。

 

極夜行前

極夜行前

 

 

なるほど、でもまあ『極夜行』には及ばないのかなーと思いながら読んでみたが、これもめちゃくちゃ面白い。いや、ある意味では極夜行のような張り詰め切った空気がないので、肩の力を下ろしながら読めていい。

特に犬のくだりが秀逸で、「犬と人ってこんなにも生死の境で濃密に関係を築き上げられるんだな」と感嘆せずにはいられない、すさまじく濃厚な描写が繰り広げられる。

 

3冊を通して角幡唯介さんは「脱システム」ということを強く語り続ける。
その中でも特に印象深いのは、「探検とスポーツは対極に位置している」というフレーズだった。

僕はどうもスポーツ観戦(特に球技)にほとんど興味が持てないのだが、それがなぜだかが何となくわかった気がした。
興味がスポーツ側ではなく探検側、つまり「脱システム側」に寄っている人間なんだと思う。それだからこそ、角幡さんの文章に人一倍、心が共振してしまうのかもしれない。

 

というわけで夏の読書で久々にシビれたこの3冊、秋の読書で皆さんにもおすすめしたい。なお文庫本なんかは本とは言えないので、ハードカバーで買うように!