まさゆき研究所

ライター・加藤まさゆきのブログです。デイリーポータルZなどに記事を書いています

主人公が暑苦しい

最近やってる『うしおととら』のアニメ見てみたんだけど、なんか、うしおが暑い。暑苦しい。中高生の頃、熱心にマンガ読んでた身としては「こんなだったかなー?」みたいな感想を持つ。  

 そして「運命なんてもんはな……自分で変えられるんだよ!」とか熱く語りまくるそのキャラを見て、なんか『天外魔境2』の戦国卍丸みたいだなと思った。ほぼ同時代の少年ヒーローだ。 

天外魔境2 卍MARU 【PCエンジン】

天外魔境2 卍MARU 【PCエンジン】

 

 そうか、この時代(1992~94年ぐらい)の少年向けヒーローはこのキャラが王道だったのか。

自分だったらいい加減食傷気味になって、もう少し醒めた感じのヒーロー見たいけどなあ、と思って思い出したのがエヴァンゲリオンだ。碇シンジくんだ 

 これがたしか1996年。

僕はアニメに対してそんなに熱が無いので、リアルタイムでは見ていなかったけど、いま思うとこれは、あの暑苦しさ全開だった主人公像へのアンチテーゼだったんだな。当時はさぞ新鮮だっただろう。

そして「世界を救う」の戯画化がここから始まったことも考えると、やっぱりこの作品は偉大だったのかもなあと今さらにして思い直している。

タラレバ娘・ゴーストアンドレディ・コウノドリ

『東京タラレバ娘』が引き続きおもしろい。 

 東村アキコさんは、言うまでもなく日本屈指の漫画家さんで、何読んでも面白いんだけど、たまに途中でとつぜんストーリーが失速することがある。

タラレバも3巻まで読んで、「もしかしてここまでが絶頂かも?」と思わせる雰囲気がちょっとあったが、全くそんなことはなく4巻でも鈍ることのない素晴らしい伸びだった。

東村さん独特のコミカルさとシリアスさのバランスも絶妙で、細やかな感情を丁寧に描きだすその筆力が惜しみなくアウトプットされている。

ひまわりっ!』の、意地悪のセツ子が突然チキン南蛮について語り出すあのコミカルさ、『かくかくしかじか』の、日高先生にマンガで稼いだ金で絵画を描け!と言われたあとのアキコの表情。どの作品を読んでいても、心に温かい風と冷たい風が交互に吹き込んでくるような魅力がある。次が楽しみだー。

 

 さて、東村さんと同じく、話題の番組『漫勉』に取り上げられていた藤田さんの作品。

友達に借りたゴーストアンドレディ。

うしとらが絶頂だと言われて久しい藤田さんだけど、この作品はめっちゃよかった。得意技である最後の伏線回収には思わず涙をこぼしてしまったぜ。

最近「サンデー」への復帰を発表してたけど、こういう「モーニング」らしいテイストに仕上げられた藤田さんの作品もいいものだと思った。ぜひまた読みたい。

 

最後に、そのモーニングの話題作と言えば『コウノドリ』。 

コウノドリ(12) (モーニング KC)

コウノドリ(12) (モーニング KC)

 

僕はもう、あまりに長年モーニングを読んできたせいか、モーニングぽいマンガを少し斜に構えて見てしまうところがあるんだけど(『グラゼニ』とか『宇宙兄弟』とか)、コウノドリはそこからまた新しいものを見せてくれた感動があった。

生誕と死が隣り合わせにあるという産婦人科の特異さを、綿密な取材に基づいて本当に丁寧に描いている。モーニングっぽい「仕事ってこんなに素晴らしいね!」的な押し付けがあまり前に出過ぎず、読みやすい。

ドラマの最終回にも取り上げられた「死戦期帝王切開」の話は本当に圧倒的すぎて、全身の毛が逆立つほどの迫力だった。産婦人科にしかできない究極の蘇生手術。中二病っぽいその名前も気持ちをそそるところがあり、まさに日本マンガ史に残るレベルの「読まずに死ねるか!」というシーンではないだろうか。

この作品もまだ続くというので、期待が高まっている。

ことし面白かった記事

portal.nifty.com

デイリーポータルで今年のベスト記事が発表されていた。

今年もあい変わらずデイリーポータルは面白く、ほんとうに感服してしまう。僕の書いた記事は特に入っていないが、手伝わせてもらった進化寿司の記事は3位に入っている。うれしい。

 

さて、それ以外のメディアでぱっと思い出すのは、オモコロのこの記事は本当に面白かった。

omocoro.jp

このあと、たまたま行ったデイリーの会議で生実演を見ることができたのだけど、その圧倒的なパフォーマンスにしびれた。この徹底的に意味の無いことにフルスイングできるウェブメディアってのは本当に素晴らしい。

ぼくが中高生の頃に、深夜番組や雑誌が受け持っていた領域がそのまま今はWebに移行しているわけだけど、そんな当時憧れだったような場に身を置けているのは本当に嬉しいことだと思う。

科学の力で実現するホワイト・クリスマス

デイリーポータルに記事を書きました。

portal.nifty.com

 

すごいぞ、はてなブログ、ここまで頑張ってFC2で書いてきた自分がバカかと思える便利さと書きやすさだ。

しかし、かつてFFFTPでサイトを更新していたころからすると隔世の感である。

最初ブログが出だしたころ、「こんな簡単にサイトに画像が載せられる!」と感動したものだが、そのあとFC2ブログが出てきたとき、「再構成かけなくていいのか!便利!その他いろいろ便利!」とさらなる感動を覚え、これ以上ブログは進化しないんじゃないかと思っていたら、はてブロのこの書きやすさである。

デイリーポータルはちょっと休筆してしまうのだが、そのあいだも書く感覚無くさないよう、昔みたいにブログ更新していこうと思う。

胃カメラの思い出

デイリーポータルZライターのさくらいさんが胃カメラを飲んで、世界の終りのように苦しかった、最後には自分は「無」だと思うことでやり過ごした、のようなことを言っていたのだが、僕も12年前に胃カメラやって同じような感想を抱き、当時やっていたブログに書いた覚えがある。

ネット上にはもう残っていないが、PCにはデータが残っていた。ほほえむような気持ちで25歳の僕が書いた文を見返してみよう。

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胃カメラ白書

胃カメラを飲む手順

1.のどの泡を除去する薬、のどを麻酔させる薬を飲む

 すっげーまずいです。前者は飲むだけで全身があわ立つような味。
 後者は、のどが他人ののどのようになります。気持ち悪いので「うえっ」とやっても動かない。
 そしてすげー苦い。

2.腸の動きを止める注射を打つ

 肩の後ろ側という、これまでに無い部位に打たれます。
 後からジンジン来る痛さ。

3.ベッドの上に寝る

 胃カメラって、もっと細いかと思ったら、全然太いの。
 携帯のアンテナぐらいのものを想像してたら、人差し指ぐらいはあった。

4.横にさせられ、麻酔薬を塗られ、口に何か噛ませられる。

 歌手の小金沢君のように、医者はのどに麻酔薬をガンガン吹きかけます。
 思わずむせ返った俺に、「むせちゃダメ」と言い、さらに麻酔薬をかけてきました。
 この時点で涙目です。

5.飲む

 のどに侵入する黒くて太い胃カメラ君。
 当然「ぐえっほっ!」とむせ返りますが、看護婦さんたちは「むせちゃダメ」と無茶な要求をします。
 全身に意識を集中して、渾身の力でむせを食い止めようとすると、こんどは「身体の力抜いて」と言われました。


 そんな無茶な。力抜いたらむせるんだよ。

 と思いましたが、文句ばかりも言ってられません。
 自己暗示で精神をリラックスさせ、徐々に力を抜く努力をしました。
 
 今、俺は、天国の野原にいる。
 今、俺は、母の胸に抱かれている。

 そう信じることで全身の力を抜くのに成功したように思えたのですが、ただの錯覚だったらしく、看護婦さんたちに何十回と「力を抜いて!」と怒られました。
 これ以上どう抜くんじゃい!
 と思ったのですが、変なものを噛まされている俺は「あー、うー」としか言えません。
 「分かりました」の意をこめて、ふるふる震えながら、親指を立てた手を見せたら「なんだ、余裕ですね」と言われました。
 
 余裕に見えるか。

 そうか、余裕に見えるのか。
 あまりの苦しみに涙をほろほろと、へんなもの噛まされてるんでよだれをだらだらと、ベッドの上で流し続ける25歳の青年を、余裕と見えるのか。
 
 と、いくら抗議したくても俺の発声することのできる言語は「あー、うー」です。
 この状況に涙倍増です。


6.胃の中に水を入れられたり、空気を入れられたりする

 胃カメラ、どうりで太いと思ったら、中で空気を出したり、水を出したりできるようです。
 水が出ると、胃の中に水を飲んだ後のアノ感触が広がります。
 空気が出ると腹部が一瞬にして膨満感で満たされます。助けて、タケダのザッツ状態。
 特に空気が苦しい。涙が流れ止まない。
 もう涙も枯れるかという頃にお医者さんのひとこと。
 「普通ならもう終わりなんだけど、君の場合粘液が多いから撮れなくて、ここでやめにするわけにはいかないんだ」
 
 待って。さっき「すぐ終わる」って言ったのはウソだったのですね。

 なんていう嘆きも届かず、撮影続行。

 水、ぴゅー。空気、むくむくむく。水、ぴゅ―。
 
 もう、自分が感情も感覚も無い存在だと思い込むことしか、手立てはありませんでした。
 幼児虐待が、幼少期の子供に与える精神的苦痛を3%ほど理解できました。

 

おわり

潰瘍痕は、ありました。
血液検査の結果、ピロリ菌はめっちゃいたみたいでした。
のどに麻酔をしたから1時間メシを食うなといわれましたが、空腹に耐えかねて、20分後におにぎり三つ食べました。

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いま読むとほんと拙い文章だ、よくこんなの書いてたなと思う。

最後、さくらいさんが「こんなの終わってすぐにもの食えるか」と言ってたのと裏腹にもりもりと飯を食っているのが若者らしくていい。

 

サブカルな兄にしてやられている

7歳年の離れたサブカルな兄が僕にはいたのだが、今思うと80年代末の僕の少年期は兄にしてやられていたのではないかと思うことが多い。

 小学3年生・「火の鳥」を買わされる

加藤家では小学3年生からお小遣いをもらえるシステムだったのだが、もらったお金で何のマンガを買ったらいいか兄(高1)に相談したところ、「火の鳥」との回答が返ってきた。

火の鳥 (No.2)

火の鳥 (No.2)

 

 ふつう、小学3年生に「火の鳥」はすすめないだろう。しかも、表紙に劇画みたいな絵が描いてある特装版みたいなやつだった。

おかげで、僕が人生で初めて買った漫画は「火の鳥(2)未来編」である。今思えば兄が読みたいマンガを買わされていたのではないだろうか。明らかに兄にしてやられている。

小学4年生・「ファイナルファンタジー」を教えられる

当時、小学生なんてRPGといえばドラクエぐらいしか知らない時代で、僕らはそれにウキャウキャと喜んでいたのだが、兄がどこから聞きつけたか、明らかにドラクエには無い魅力を放つとんでもないゲームを借りてきたのだった。 

ファイナルファンタジー

ファイナルファンタジー

 

 これである。

天野喜孝さんの絵から神話のような香りが漂うそのゲームに僕はとてつもなく心を奪われそのすべてに虜になり、兄に命じられたレベル上げにすら嬉々として取り組んでいたものだった。明らかにしてやられている。

小学5年生・「VOW」を与えられる

さて兄も高校3年生になり、すこし大人びたものにも手を出し始めるのだが、この頃兄が買ってきたある一冊の本の衝撃はすごかった。 

VOW 現代下世話大全―まちのヘンなモノ大カタログ (宝島COLLECTION)

VOW 現代下世話大全―まちのヘンなモノ大カタログ (宝島COLLECTION)

 

 説明は不要だろう。このあと90年代にわたり一世風靡する「VOW」の第1巻である。これからしばらく、僕は街中や新聞でヘンなものを見つけては「お兄ちゃんあったよ!」とネタを報告する兄の特派員になったのであった。明らかにしてやられている。

小学6年生・「女神転生」買ってきやがった

兄は全く受験勉強せずに、コサキンのラジオの深夜イベントとか行っていたため見事に浪人し予備校通いとなるわけだが、そんな兄が明らかに何かの確信をもって一つのゲームを買ってきた。 

このあと10年の僕の人生を左右したと言ってもよい、初代の『女神転生』である。

兄はさすがに受験勉強をしていたので時間が無く、かたわらで弟にこのゲームをプレイさせ、それを眺めて満足していたようである。

やはり、明らかに兄にしてやられている。

 

ただ、このおかげで僕は小学校で「ジャンプには載ってない面白いものを次々と繰り出してくる」という居場所を得ることができたので、いま思うと感謝しかない。

ありがとう、兄さん。