まさゆき研究所

ライター・加藤まさゆきのブログです。デイリーポータルZなどに記事を書いています

とうとう落語(というか志ん朝)にはまっている

ここ最近、ツタヤで古今亭志ん朝の落語のCDをひたすら借りている。
ちょっとしたきっかけがあってすっかり惚れ込んでしまった。

1月からずっと亡くなった叔父の遺品整理をぼつぼつしているのだが、そのなかに古今亭志ん朝のCDが1枚あった。
叔父の家まで高速で1時間ぐらいなので、「まー、これでも聴きながら帰るか」と思って車の中で聞いたら、これが素晴らしくて、すっかりはまってしまったのだ。

これまでも落語は聞いたことはあった。
寄席に行ったこともある。職場の芸術鑑賞で、校内寄席を開いたことも何度かある。冬は風呂であったまりながらYoutubeで一演目ぐらい聴いたりする。『昭和元禄落語心中』も大好きだ。
でもこれまで落語好き人たちの情熱を、正直ちょっと引き気味で眺めていたところがあったので夢中になるまでではなかったのだが、そんな斜に構えた気持ちを全部突き破るぐらいに志ん朝の落語はすごかった。

そのとき聴いた演目は『夢金』。真冬に雪の降る川で船を漕ぐ情景がありありと見えてくるような描写力、欲と正義感のはざまで揺れ動く心の機微を、絶妙な間合いと台詞回しであぶりだす表現力、とにかく全てが僕がこれまで聴いたことのある落語とは別次元のように思えた。

そこからかなりの量の志ん朝の噺を聴いたが、どれもこれも「こんなに完璧な一人芝居が世界で他にあるのだろうか?」という気持ちにさせられる素晴らしい出来だった。

不幸にして志ん朝さんはまあまあに早世されているので、音源の声が若いのもよい。名人だ国宝だという老人の落語も聞いてみたが、一人芝居である以上、どうしたって声の表現力が豊かな若い時期に比べ完成度は劣る。

そして同じ噺で志ん朝と別の落語家さんのを聴き比べても、やはり志ん朝の方がいい。
張りのある声質と流暢で歯切れの良い江戸弁。演じ分けの徹底的なうまさ、細やかな語彙の良さ。
江戸の世界がそのまま切り出されてきた空間が眼前に現れてくような体験を、当時のお客さんたちはしたと思う。

ここまで聞いて、僕のおすすめは最初に書いた「夢金」そして「文七元結」「唐茄子屋政談」、あと笑える話では「明烏」あたりだ。

YouTubeだと有名な「芝浜」が出てくるが、登場人物が2人しかいないので、一人芝居の上手さや凄みを感じるにはもう2〜3人出てくる演目がいいような気がする。

どれも登場人物の抱える葛藤の描き出しがすごい。

レンタルとYouTubeで聴ける音源はほぼ全部聴き終えてしまったので、次に手を出すとしたらDVDである。
大人向けなのでさすがに高いのでけれど、久々に夢中になったものなので、これは買ってもいいかもしれない……。
「ぐずぐず言ってねぇで買っちめぇよ!」と僕の中の小悪魔が江戸弁でささやいている。