「NHK朝ドラはインフラ。」と言っている人を見て、何言ってるんだろう、ただのテレビ番組じゃないか、と思っていた僕だが、「いないいないばぁ!」はもはや我が家にとって完全なインフラである。
子役「ゆきちゃん」、着ぐるみ「わんわん」、手人形「うーたん」の織り成すステージは非の打ちようが無く、驚くほど完全で完璧な、付け入る隙の無いスリーピースである。
ふだんは放恣な加藤家の1歳児も、この番組を見るときだけは人が変わったようになり、食い入るように画面に見入る。この15分が無ければ加藤家の家事は進まない。
いったい何がここまで子どもの心を引き付けるのか。
ボールがただ坂道を転がるだけのコーナー。何も教えずとも一緒に踊りはじめる体操「わーお!」。極めて高品質に作られたフェルティングの動物人形が季節の風景の中で踊るオープニング。ひとつひとつを解き明かすようにじっくりと見ているうちに気付く。
あ、これが世に言う「親の方がハマる」ってやつか。
番組は基本的に、1~2歳児向けに作られている。歌も、ごく初期に幼児が認識できる/すべき事物を中心に歌詞が書かれている。
「パンツ」「散髪」「トマト」「寝転がる」「手洗い」「寝かしつけ」……。
一緒に歌ったり踊ったりしていると、乳児期のピュアでピースフルな架空世界に、みずからの意識も没入していくような錯覚に陥る。
ああ、この平和な世界いいな、ごはんもおふろも何でも出てきて、まいにち元気で「あそぼうね~っ」で過ぎて行って……
派遣切り問題とか、老後の不安とか、そういった苦労なんてまるでこの世に無いような、不思議な浮遊感のなかに溶け込んでいくような……
こういう、女の子ばっかりがもりもりと出てくるありえない世界のアニメはバカだと思ってきた僕だけど、この架空世界に浮遊していく感じがたまらなくてみんな見ているのかもしれない。
ちょっと人の気持ちを分かるようになれた気がする。