デイリーポータルZライターのさくらいさんが胃カメラを飲んで、世界の終りのように苦しかった、最後には自分は「無」だと思うことでやり過ごした、のようなことを言っていたのだが、僕も12年前に胃カメラやって同じような感想を抱き、当時やっていたブログに書いた覚えがある。
ネット上にはもう残っていないが、PCにはデータが残っていた。ほほえむような気持ちで25歳の僕が書いた文を見返してみよう。
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胃カメラ白書
胃カメラを飲む手順
1.のどの泡を除去する薬、のどを麻酔させる薬を飲む
すっげーまずいです。前者は飲むだけで全身があわ立つような味。
後者は、のどが他人ののどのようになります。気持ち悪いので「うえっ」とやっても動かない。
そしてすげー苦い。
2.腸の動きを止める注射を打つ
肩の後ろ側という、これまでに無い部位に打たれます。
後からジンジン来る痛さ。
3.ベッドの上に寝る
胃カメラって、もっと細いかと思ったら、全然太いの。
携帯のアンテナぐらいのものを想像してたら、人差し指ぐらいはあった。
4.横にさせられ、麻酔薬を塗られ、口に何か噛ませられる。
歌手の小金沢君のように、医者はのどに麻酔薬をガンガン吹きかけます。
思わずむせ返った俺に、「むせちゃダメ」と言い、さらに麻酔薬をかけてきました。
この時点で涙目です。
5.飲む
のどに侵入する黒くて太い胃カメラ君。
当然「ぐえっほっ!」とむせ返りますが、看護婦さんたちは「むせちゃダメ」と無茶な要求をします。
全身に意識を集中して、渾身の力でむせを食い止めようとすると、こんどは「身体の力抜いて」と言われました。
そんな無茶な。力抜いたらむせるんだよ。
と思いましたが、文句ばかりも言ってられません。
自己暗示で精神をリラックスさせ、徐々に力を抜く努力をしました。
今、俺は、天国の野原にいる。
今、俺は、母の胸に抱かれている。
そう信じることで全身の力を抜くのに成功したように思えたのですが、ただの錯覚だったらしく、看護婦さんたちに何十回と「力を抜いて!」と怒られました。
これ以上どう抜くんじゃい!
と思ったのですが、変なものを噛まされている俺は「あー、うー」としか言えません。
「分かりました」の意をこめて、ふるふる震えながら、親指を立てた手を見せたら「なんだ、余裕ですね」と言われました。
余裕に見えるか。
そうか、余裕に見えるのか。
あまりの苦しみに涙をほろほろと、へんなもの噛まされてるんでよだれをだらだらと、ベッドの上で流し続ける25歳の青年を、余裕と見えるのか。
と、いくら抗議したくても俺の発声することのできる言語は「あー、うー」です。
この状況に涙倍増です。
6.胃の中に水を入れられたり、空気を入れられたりする
胃カメラ、どうりで太いと思ったら、中で空気を出したり、水を出したりできるようです。
水が出ると、胃の中に水を飲んだ後のアノ感触が広がります。
空気が出ると腹部が一瞬にして膨満感で満たされます。助けて、タケダのザッツ状態。
特に空気が苦しい。涙が流れ止まない。
もう涙も枯れるかという頃にお医者さんのひとこと。
「普通ならもう終わりなんだけど、君の場合粘液が多いから撮れなくて、ここでやめにするわけにはいかないんだ」
待って。さっき「すぐ終わる」って言ったのはウソだったのですね。
なんていう嘆きも届かず、撮影続行。
水、ぴゅー。空気、むくむくむく。水、ぴゅ―。
もう、自分が感情も感覚も無い存在だと思い込むことしか、手立てはありませんでした。
幼児虐待が、幼少期の子供に与える精神的苦痛を3%ほど理解できました。
おわり
潰瘍痕は、ありました。
血液検査の結果、ピロリ菌はめっちゃいたみたいでした。
のどに麻酔をしたから1時間メシを食うなといわれましたが、空腹に耐えかねて、20分後におにぎり三つ食べました。
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いま読むとほんと拙い文章だ、よくこんなの書いてたなと思う。
最後、さくらいさんが「こんなの終わってすぐにもの食えるか」と言ってたのと裏腹にもりもりと飯を食っているのが若者らしくていい。