まさゆき研究所

ライター・加藤まさゆきのブログです。デイリーポータルZなどに記事を書いています

とんかつDJアゲ太郎の衝撃

「いやー漫画ってまだまだ面白くなれるんだなー」、と『とんかつDJアゲ太郎』を読んで心底実感した。

 

とんかつDJアゲ太郎 1 (ジャンプコミックス)

とんかつDJアゲ太郎 1 (ジャンプコミックス)

 

 去年ぐらいから、漫画の趣味がいい友達に推されていたんだけど、既刊6巻一気に借りて読んだら、その猛烈な面白さに頭がくらくらした。

 

 

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とんかつ屋の制服のままレコードを回す主人公「アゲ太郎」

 

無垢な少年の成長譚というジャンプ漫画の王道手法への、「とんかつとDJは同じ」というワケ分からないテーマの掛け合わせ。

実験的手法のように思えるけれど、王道を踏襲しているおかげで読みやすいし、キャラクターの個性もビキッと立っていて、読み飽きることが全くない。

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登場するだけですでに気持ちいい、「VJコマツナギ

 

こんな破天荒な展開なのにツッコミを一切入れないスタンスがギャグ漫画のようでありつつも、シリアス漫画としても読め、不思議な温度感を保つ。

トーンをあまり使わず、ベタを多用して二階調気味に全て手書きで仕上げられた絵には迫力があり、クラブの雰囲気や音楽の魅力が、地肌にまで伝わってくるようだ。

こんな漫画のありかたがあったのか……。
猛烈にはまってしまって、おもわずオフィシャルグッズの通販サイトまで調べた。

GOODS | とんかつDJアゲ太郎

読むとアゲ太郎の服がかっこよく思えてきてしまうので、かぶっている「しぶかつ」の帽子とか、DJイベント"LARDCITY"のシャツとか本当に欲しくなってしまう。すごい魔力だ。

 

そして、読後には猛烈にクラブに行きたくなり、とんかつが食べたくなる。

矢も楯もたまらず馴染みの店にとんかつを買いに行った。

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ぼくの「ソウルとんかつ」とも言えるかつ大ロースカツ弁当

 

行ったらちょうど、久しぶりに店のグッズを作ったんだということで、偶然にも店主のおじさんから「かつ大」のオフィシャルTシャツを1枚もらうことができた。

 

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「しぶかつ」グッズよりもうれしい。ありがとうおじさん、おばさん。

 

僕の熱意が天に通じたのかもしれない。めっちゃアガる。

というわけでせっかくなのでモロに影響を受けたままロースとんかつ弁当を喰らい、この「かつ大」Tを着て渋谷のクラブに繰り出して行きたいと思う。

オタクを攻撃したのは僕だったんじゃないか

カルチャー論が好きで、ちょこちょこ目を通しては真剣に考える。

このあいだ読んだ鴻上さん×中川いさみさんの対談における「不条理の終焉」などには、ことさらに「なるほど……」と思わされた。

www.moae.jp

子供の頃からスピリッツを読んでいて、中川いさみさんの熱心なファンだったので、いま中川さんが考えていることというのに非常に関心がある。榎本俊二さんも育児マンガを描く時代、あんなに流行った「不条理」はもう戻って来ないのだろうか。

(鴻上さんの登場回は、この前の回もほんとうによかったのでおすすめ)

 

さて、それと最近気になったのが「オタク対サブカル」という構図はあったかという話だ。

ta-nishi.hatenablog.com

 

これはもう、ものすごくあったように思う。

特に僕ら、またそれより少し上(1973~78年生まれぐらい?)には肌感覚として残ってるんじゃないだろうか。そして、僕なんかまさに「対オタク意識」をぎんぎんに持っていた中高生時代を過ごしたような思い出がある。

1980年代末は宮崎勉事件のせいでオタクに対する市民権は全く無く、もし今みたいに「痛車」なんて走らせようものなら、公序良俗に反したかどで逮捕されるんじゃないか、そんな空気が世間に漂っていた。

当時の僕は美少女アニメにもライトファンタジーにも全く興味が無く、VOWを読みながらスーパーファミコンのやり込み(とくに「シムシティ」と「女神転生」)に心血を注いでいた奇特な中学生だったが、そんな違いはお構いなしに、学校ではまとめて「オタク」の箱に放り込まれていた。

このとき僕らなんかが思っていた、

「俺が読んでるのは『エルリックサーガ』であって『スレイヤーズ』ではないし、プレイしてるのは『デビルサマナー』であって『ときめきメモリアル』ではない、あいつらとは全然違う」

のような気持ちが、その対立構造の原点だったんではないかと思う。

その後もしばらく、オタク層を下に置く構図が続いていた気がするが、あれを作り出したのは、あのころ(90年代中期)の僕のような若者一人一人の意識だったのではないかと思うと、なんだか胸が痛む。

 

草花図鑑が面白い

最近、休日には子どもと散歩ぐらいしかすることが無いので、道に生えている雑草を毎日観察するようになった。

見ていると色んな種類があって、特に春なんかは中3日ローテーションぐらいで次々と新しくいろんな花が咲き、生物の教員である僕でも分からないものが多く、気になったので草花図鑑を手にして散歩するようにしてみたのだけど、これがめっぽう面白い。

散歩で見かける野の花・野草

散歩で見かける野の花・野草

 

 

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ん、これ、ちょっときれいだけど何だろう……

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あ、これか。なるほどねい……

 

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お、最近これめっちゃ生えてるなー

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おお、これも載ってる、ニワゼキショウ

 

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何だこのカタバミに黄色いマメの花が付いたみたいなの?

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これか!載ってるもんだなあ、はじめて気づいたぜ。

 

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なんか最近シャラシャラしたのいっぱい生えてきた―

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うわー、これかー、載ってるもんだなー

 

「お前は大学時代に何を専攻していたんだ」

「生物分類で論文書いた人間がその本で感動してどうする」

と総ツッコミを受けるのが目に見えるが、それでも生えている植物がだいたい全部載ってるので本当に面白い。学生の頃は実習でだらだらとやっていたが、本気で始めてみるとかなりはまる。

観察と撮影も面白いが、それだけでは飽き足らなくなってきたので、いまは「押し花作りたい欲」に駆られている。

このまま進むと3年後には押し花でしおりを作るようになり、10年後には押し花絵葉書の作り方を地元の小学生に教えるおっさんになっている公算がきわめて大きい。

自分の将来が不安だ。

 

真田丸と新聞

真田丸』を毎週熱心に見ている。

大河ドラマ、ってのを通して全部見たことが一度も見たことが無かったのだが、『真田丸』はこれまでと明らかに異質な感じがして、毎週テレビにかじりつきだ。このこれまでにない面白さの質は何だろうな、とぼんやり考えていたのだが、「新聞」と「創作物」の違いに似ているなと昨日なんとなく思った

新聞のテンションって常に変わらない

たまにレポートや調べもので新聞の古い縮刷版を読むことがあるけど、驚くのはそのテンションというか、スタンスが、まったく時代を経ても変化しないことだ。

昭和40年とかの出版物なのに、今も同じ記者が書いていると言われても疑問を感じないのではないかというレベルで視点の置き方や報道のスタンスが変わらない。何十年も「まったく同じ窓」から世間を眺めているような、そんな印象が新聞という媒体にはある。

大河もなんだか毎回そんな感じ

僕の目には、歴代の大河ドラマも全部同じように映ってきた。

なんというか、毎回題材は変わるけれど見ている「窓」がいつも変わらない。さすがに歴史書ではないから主観は入るにしても、歴史の中の人物の苦悩や苦闘をいつも同じ視点から描いているような、そんな印象があった。

なので年が変わるたびに大河ドラマを1~2回見ることがあっても、「ああ、いつもの大河やってるね」ぐらいの印象しか持てない。琉球とか清盛とかちょっと変わった題材を扱ってみても、けっきょくその雰囲気は一緒なので、同じ新聞記者が違う事件について記事を書いているのを見ているような、そんな風にしか思えなかった。

真田丸』の”実験”

しかし『真田丸』は第1回目から、なんか全然違った。

あの独特の「大河ドラマの第1回ですぞ」みたいな空気はなく、主題にずばっと切こんでいくその吸引力の強さからもう鮮烈だった。戦国時代を舞台にしてあとは自由闊達にやらせてもらうぜ、という意欲が明らかに満ち溢れていた。

そして第2回目から次々と繰り出される実験的な試み。

歴史の文脈を踏まえたうえで繰り出す「もし現代の家族観をこの時代に当てはめたらどうなるだろう」「大阪城内がベンチャー企業の職場のようであったらどうだろう」のような仕掛けは、従来の大河ドラマに対する挑戦のようにも思えた。

この三谷幸喜が「自分の窓」から戯曲を書くかのように好き勝手にやっている感じが本当に新しい。「新聞」的であった大河ドラマの破壊。これが真田丸に肩入れしてしまう最大の理由だと思う。

それでいて残る歴史の「つめたさ」

そして『真田丸』のさらに好きなところは、歴史の魅力の本質であるとも言える「つめたさ」がきりりと際立たせられているところである。

大河ドラマが「大河」と名付けられている所以は、歴史というの大きな流れの中に飲み込まれつつも抗った人間の姿を描き出そうとしていることである、と僕は思っていて、朝ドラと区別のつかないような感じだった前作とかにはむむと思っていたのだが、真田丸はコミカルにまとめつつもそういうところはしっかり手を抜かずに仕上げているように思う。(他の大河通して見たことないのにごめんなさい)

勝頼も「黙れ小童」の人も、あんなに一人の死に歴史の業の深さを感じさせる描き方はもう、さすが三谷幸喜さんだとしか言いようがない。

 

というわけで「真田丸」、6月で放映の半分が終わってしまったのかと思うとすでに寂しくなってしまうほどの熱の入り方なのだが、のこり半年、1秒たりとも見逃さない熱意をもって追いかけていきたいと思っている。

 

早食いな俺を責めないで

俺は飯を喰うのが早い。らしい。

一緒に食事するとたいていの人から驚かれるが、自分としては一番おいしいと思えるペースで食べているだけなので、特に意識はしていない。

 

が、責められることも多々ある。

なぜだ。

速く走ったり、朝早く出勤したり、早く仕事を終わらせたり、「早いこと」は全般的にほめられるはずのに、なぜ早く飯を食うのはあんなに責められるのだ。

 

「早食いは太るよ」

俺は太ってない。過食でもない。むしろ少食。

少食なのに早食いだから、燃え尽きるマッチのようにほぼ瞬間的に食事が終わってしまう。これが驚速の理由だろうか。でもおかげで昼休みにより多くの仕事を進められている。

そしてめっちゃ野菜食べてる。健康。毎月100km走ってるし、フルマラソンも走れる。大丈夫。

 

しかしこれ長年思っているのだが、同じ量でも早く食べると健康不良を引き起こす実験結果とかあるのかなーと思って調べたら、「早食いは絶対NG!」とかのゴミクズのようなサイトばかりの検索結果に混ざって、こんな論文報告が出てきた。

背景「一定量の食事を摂取した場合にも、食べる速さが体型に何らかの影響を与える可能性があるのかについては明らかにはなっていなかった。」

 ↓

「食後90分間のエネルギー消費量は急いで食べた試行の場合、体重1kg当り平均7calだった一方、ゆっくり食べた時には180calと有意に高い値を示した。急いで食べるよりも、よく噛んでゆっくり食べた方がエネルギー消費量が大幅に増えた。」「消化管の血流もゆっくり食べた方が有意に高くなった。」

 

 

なるほど。一定の説得力がある。

でもこれが肥満につながるとの結論ではないらしい。

 

というわけでこれから俺は「早食いやめなよ」と言われたら、

この研究のサイトを見せ、

「この先行研究を元にして早食い行動と肥満の関係を実験し、立証できるんだったらやめてもいいよ」

と言い返して、積極的に友達を無くしていこうと思う。

 

のらのら2016年3月号出ました!

 農業教育雑誌「のらのら」最新号出ました!

のらのら 2016年 03 月号 [雑誌]
 

 

とはいえ、デイリーと同じくこちらも休筆中なので、基本的にデイリーのリライトを載せている状況です。

先週、総務のパートさんにこの連載を発見され、ものすごい勢いで発見報告されました。デイリーはあまりそういうことないので、紙媒体との違いと底力を感じます。

『じみへん』の覚えてる話

中崎タツヤさんの『身から出た鯖』を全巻買ってみた。 (いまさら)

身から出た鯖 (3) (YKコミックス (486))

身から出た鯖 (3) (YKコミックス (486))

 

 

おもしろい。

『じみへん』では試さなかった4ページや1ページの形式のものまで自由に幅広く読めるのが楽しい。

 

ところでスピリッツの申し子たる僕は、例にもれず『じみへん』を小中高生時代に熱愛していた。あまりに読んだため、単行本は買ってないのに今でもそのいくつかは何も見ずにそのストーリーを思い出すことができる。

 

  • おばあちゃんがシワを伸ばしたら超美人な話
  • 豆腐屋の向かいに自宅がある豆腐屋の話
  • 全身の体臭を嗅ぎ比べる男の話
  • 女子オリンピックのユニフォームをスカートにする話
  • 犬によく似たおっさんを轢く話
  • 目の前にある道具は使いたくてたまらなくなる話
  • 誰も「特に自分のこと」と思ってくれない強盗の話
  • 女子高生か人妻かで帰り道を迷う男の話
  • よりによって自分の所へ来る人たちが集う話
  • パソコンを買う必要が無い結論に至る話
  • 音楽で世界平和を夢見てジョンレノンに否定される話
  • エレクトーンを買ってすぐ飽きる女の話
  • 最後、女湯に平然と入って合格する話
  • 最初の態度で人間関係が決まる強盗の話
  • お客さんがそう思ってるだろうってわかってましたよと応酬する話
  • サクランボの枝を舌技で結ぶ修行をする男の話

『じみへん』のストーリーを1行の文で表してみると面白い。

覚えてる人には「あー!あった!」となるし、知らない人には訳が分からないだろう。